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9月/Sep
女子/Woman by 榎本 至


世界選手権上海大会女子水球競技レビュー

ギリシャは世界選手権初優勝を果たした
photo 新居彩子
中国も地元開催で2位と健闘
 
 7月29日の決勝では地元中国をギリシャが破り、世界選手権初の優勝を決めた上海世界水泳女子水球競技ですが、本稿では上位の戦いを中心にレビューします。
 男子と異なり、女子は世界選手権の上位に入った国にロンドン五輪の出場権が付与されることがありません(女子の五輪出場権は大陸代表5ヶ国と最終予選の上位3カ国、計8ヶ国)。それでも参加各国はその威信をかけて、今シーズン最後のイベントに臨みました。

図1、2

【上位チーム選手の体格と年齢】

 上の図は、今大会上位8カ国の選手の平均身長と平均年齢をそれぞれ比較したものです。上位8チームの平均身長は176.0cmとかなり高く、チームによって若干の差は見られるものの、どのチームも高身長の選手を揃えている事が伺えます(図1)。特に中国が、カナダやオーストラリアといった国々を越え、平均身長で世界第3位にあることは同じアジアで闘う日本にとって脅威となります。また、優勝したギリシャのセンターであるアレキサンドラ・アシマキ選手の身長は1.7mですので、彼女のように脚の強さと動きの速さで身長をカバーするプレーを、日本は参考にしなければならないかもしれません。
 次に参加選手の平均年齢ですが、上位8チーム全選手の平均年齢は24.6歳ですが、それに対してギリシャが26.4歳とベテランを多く揃えている事が伺えます。1日おきにゲームが休みとなる世界選手権ならではの競技日程にあっては、休養が重要視されるベテラン選手にとって大きなアドバンテージになる事は間違いありません。特にキャプテンを務めるキリナキ・リウシ選手は、そのスピードと持久力を期待されて32歳という年齢にも拘らず、殆ど交代無し(全試合時間の82%に出場)でゲームに参加していますので、ギリシャが予選リーグにおいてグループを1位で抜けたことによって、休日がさらに増えた事も大きなプレゼントにとなっていたと思われます。
 またここでも中国の平均年齢が22.7歳と上位チームで最も若い事が注目されます。北京五輪を闘った主軸の選手達は25歳ですが、北京以降も若手の選手が供給されている事から、女子中国が単発ではなく長期スパンで育成強化を進めている可能性が示唆されます。9月11日からは世界ジュニア選手権がイタリアで開催されますが、そこでの中国の戦い方にも日本は注意しなければなりません。

【上位チームの戦い】
 上位チームに共通して、強いセンターを擁している事はもちろんですが、センターをより活かすために、早いタイミングで効果的なパスをセンターに入れている事が特徴的でした。つまり、アンブレラが形成されきっていない状況でも、センターがポジションをとっていればどこからでもボールを放り込む傾向が強くなっています。さらにイタリアやオランダは、ゾーンディフェンスでセンターが守られていても、隙があれば速くて正確なボールを入れてきます。ギリシャについても、センターのポジションチェンジを予測したかのようなディフェンスのカバーリングをかいくぐったボールをゴール前に集めていました。そうしたゴール前に関わる速いプレーに対してレフェリングも反応しており、結果として30秒の攻撃時間を使い切る事無く退水を誘発するケースが目立っていました。
 また、大きな番狂わせのゲーム続出も今回の大きな特徴と言えるでしょう。その筆頭とも呼べるゲームがアメリカとロシアの準決勝です。過去大きくアメリカに負け越しているロシアは、この試合でも序盤は良いところが無く、2ピリオド5分まで4対0という苦しい展開を強いられていました。しかし3ピリオド中盤から、アメリカのペースが突然失速し、ロシアに約4分で5ゴールを許し、あと一歩に迫った勝利を奪われてしまいました。しかしここで運を使い果たしたかのように、ロシアは続く準決勝の対中国戦で中国に敗れ、決勝進出はなりませんでした。もしもロシアが決勝に進出していたら、昨年の欧州選手権決勝の再現が見られたはずです。この時は11-6とロシアがギリシャを圧勝しており、ギリシャにとっては決勝の相手が中国で助かった部分があるかもしれません。他にも今回は、オーストラリアやカナダといった上位常連国が準々決勝ラウンドで相次いで消えた、波乱の大会となりました。

【ギリシャ初優勝】
 2005年のワールドリーグ優勝以来、久々のメジャーイベントチャンピオンに返り咲いたギリシャ。世界選手権の優勝は初めてです。決勝でも3得点を稼いだセンターのアシマキ選手が手堅くゴールと退水を量産するという安定した攻撃と、変幻自在にフォーメーションを切り替えて敵を幻惑させるゾーンディフェンスが特徴的です。メンバー構成は国内リーグでも常に優勝を争う2つの強豪、ブヤフメニとオリンピアコスからそれぞれ8人と4人、さらにテッサロニキから1人という布陣で初優勝をものにしました。
 優勝したとは言うものの、今シーズンのギリシャの戦いを見ると、決して順風満帆の道のりではありませんでした。国内リーグ終了直後のワールドリーグの欧州予選ではハンガリーやイギリスにも黒星を喫し、それでもかろうじて進出したスーパーファイナルではアメリカ相手に金星を挙げたものの6戦3敗で最終順位が7位と低迷しました。決して実力は低くないものの、結果にムラがある難点を抱えながら闘ってきたということになります。
 ギリシャチームを率いる41歳のゲオルギス・モルフェシス監督は、19歳で指導者の道を志しました(所属はギリシャ名門のピラレウス)。30歳となった2000年にはピラレウスのヘッドコーチとしてギリシャナショナルカップを制し、その後2003年から女子代表チームのアシスタントコーチとなり、2009年からはヘッドコーチに就任しました。「我々のスポーツはスポンサーや観客も少なく、それにも拘らず選手達は水球を愛するが故に厳しいトレーニングを積んでいる」と選手達を評しており、「例えどんなスポーツであっても、自分が選んだスポーツの価値を知りたいなら、チャンピオンを目指す事と国を代表する選手を目指す事が大切だ」と語る、情熱を持った指導者です。

【8位以内の入賞を逃した国々】
 ハンガリー;9位に沈んだハンガリーですが、監督のメレス・アンドラスは平均年齢22歳の若手チームに対してシーズン当初、「まだ水球の何たるかを理解していない選手達であり、沢山の経験が必要だ」とコメントしていました。4月に行われるオリンピック最終予選に向けて、ますますの強化が必要でしょう。
 スペイン;往年の名選手、ミグエル・オカ監督が昨年から率いるスペインですが、クラブレベルではバルセロナ近郊の名門サバデールが2010~11シーズンのチャンピオンズカップを制して成功を収めたものの、フル代表は昨年の欧州選手権の6位に続いて11位と低迷。オリンピック最終予選参加用件である欧州5位までに入れず、このままでは最終予選への参加が不可能というギリギリのところまで落ちてしまいました。しかしながら、8月21日~28日にかけて地元のマドリッドで開催された欧州ジュニア選手権では、ジュニア代表が奮闘、3位に入り次世代への希望が繋がれた形となりました。

 9月11日からイタリアのトリエステで開催される世界ジュニア選手権を持って今シーズンの国際メジャーイベントは終了し、欧州各国、及びオーストラリアはクラブシーズンに、アメリカでは大学シーズンに、それぞれ入ります。そして来年、4月に開催されるオリンピック最終予選では、残る3枠を狙った大激戦(主な強国はイギリスを除く欧州から5ヶ国、そして米大陸からはアメリカもしくはカナダ)が展開されることになります。